――汚名挽回
というのは――
長らく誤用だと思っていました。
(「汚名」を挽回してどうするんだよ。挽回すべきなのは「名誉」だろう? 「汚名」は返上しなきゃ……)
と思っていました。
ところが――
専門の学者さんたちの間では、必ずしも統一見解が出されているわけではないのだそうです。
なかには、
――「汚名挽回」は誤用ではない。
と主張される方もいるのだとか――
その根拠は、
――疲労回復
とか、
――劣勢を挽回する
といった言い回しと同じだというものです。
たしかに、「疲労回復」も「劣勢を挽回する」も、よく使われる表現ですね。
ただし――
どちらの言い回しも「汚名挽回」と同列に並べてよいものかどうか、ちょっと疑問は残ります。
例えば――
「疲労回復」は「疲労が回復すること」ですよね。
一方、「汚名挽回」は「汚名を挽回すること」です。
よって、やはり「疲労回復」と「汚名挽回」とは、ちょっと違う気がする――
もし「汚名挽回」が「汚名が挽回すること」なら、たしかに同列ですが、「挽回」にそのような意味はないでしょう、おそらく……。
もっと端的にいえば、「汚名回復」という言い回しも不自然です。
(なんかヘン)
と思ってしまう――
「劣勢を挽回する」についても同様の違和感を指摘できます。
「劣勢」と「汚名」とが完全に同質の言葉であれば問題はないのですが――
ちょっと異質の言葉のように思えるからです。
「劣勢」というのは、「不利な形勢」「劣った勢力」という意味ですよね。
一方、「汚名」とは「悪い評判」「不名誉な評判」という意味です。
よって、「劣勢」は物事の過程(途中経過)を表していて、「汚名」は物事の結果(最終評価)を表しているといえます。
「途中経過」だからこそ挽回できるのであって、「最終評価」では、ちょっと挽回はできない――
そう考えるのが自然ではないでしょうか。
とはいえ――
……
……
――「汚名挽回」は誤用でないかも……。
というのは――
なかなかに面白い着眼です。
もう少し考えてみます。