マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

「役不足」が誤用されるわけ

 ――役不足

 という言葉があります。

 ――役目が力量に比べて軽すぎる。

 という意味です。

 例えば、

 ――その仕事は、あの人には役不足だ。

 などといいます。

 この場合――
「あの人」は素晴らしい力量の持ち主なので、「その仕事」を任せるのは、もったいない――
 という意味になります。

 が――
 この「役不足」――よく、「力不足」の意味で誤用されます。

 ――力不足

 というのは、

 ――役目が力量に比べて重すぎる。

 という意味です――「役不足」とは正反対の意味なのですね。

 ……

 ……

 なぜ、「役不足」は誤用されるのか――

 それは、

 ――そもそも、「役不足」を用いるべき状況が珍しいから――

 と、僕は考えています。
 もう少し踏み込んでいうと、

 ――「役不足」を用いるべき状況は、原理的に、生じにくいから――

 です。

 どういうことか――

 本当の意味で素晴らしい力量の持ち主は――
 どんなに軽い役目であっても、それを素晴らしく務め上げてしまうので、その役目の軽さを感じさせません。

 むしろ、その役目に潜んでいた重要性を世間に広く気づかせることさえ、あります。

 素晴らしい力量の持ち主は、役目を選ばないのですね。

 よって、「役不足」を用いるべき状況というのは、きわめて生じにく――
 ということがいえます。

 一方――
「力不足」を用いるべき状況というのは、いくらでも生じうるのですね。

 中途半端な力量の持ち主というのは――
 そんなに重くはない役目であっても、きちんと務め上げられず、かえって役目の重さを感じさせてしまいます。

 ときには、それなりに立派な力量なのに、つい侮ったり油断したりして、役目をきちんと務め上げられない、ということも、あります。

 人は誰しも、つい侮ったり油断したりするものです。