マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

その旅行カバンは爆発しなかった

 電車の座席に着いて発車を待っていると――

 目の前に――
 黒い大きな旅行カバンが置かれていました。

 持ち主の姿が見当たりません。

 ふと――
 3日前のフランスの同時多発テロの事件が頭をよぎりました。

(おいおい……。この荷物、まさか爆弾じゃないだろうな)
 と――

(そうえいば――)

 10分ほど前に――
 その旅行カバンを置いて行った黒づくめの男のことが思い出されました。

 その時は気にもとめませんでしたが――

(もしかして……!)

 そう思うと――
 急に落ち着けなくなりまして――

(隣の車両に移ろうか?)
 とか、
(いっそ、この電車に乗るのをやめようか)
 などと思いまして――

 そうこうしているうちに――

 隣の車両から車掌さんがやってきて、
(お? 荷物を調べてくれるのかな?)
 と期待してみていたら――

 あっさり通り過ぎようとするので――
 よっぽど、

 ――あのぉ! この荷物、持つ主が見当たりません!

 と大声で呼び止めようかと思いましたが――
 そんな勇気もなく――

 そのまま車掌さんは立ち去り――
 目の前には黒い大きな旅行カバンだけが残されました。

(終わったな)
 と思いました。

(この荷物が爆弾だったら、オレは死ぬ)
 と――

 なにしろ至近距離でしたからね。

(たぶん、3日前のパリでも、こんな気持ちで死んでいった人がいたかもな)
 などと思いながら――
 じっと目の前の黒い大きな旅行カバンをみていました。

 ……

 ……

 もちろん――
 今こうして『道草日記』を書いているわけですから――
 その旅行カバンは爆発しなかったわけですが――

 発車の1~2分前になって持ち主が現れ――
 カバンの隣にドカっと腰を落ち着けました。

(やれやれ)
 と思いましたね。

 ……

 ……

 電車を降りてから――

(やっぱり、まずかったな)
 と――
 思いました。

(死ぬ確率を少しでも減らすべく、最善を尽くすべきではなかったか)
 と――

 たとえ――
 その確率が、0.0001% から 0.00001% に減る程度であったとしても――

 ……

 ……

 ……などということを考えた自分が、
(もっと、まずかったかな)
 と――
 思いました。

 ……

 ……

 最近――
 どうも考えすぎるんですよね~(苦笑

 よい小説が書けそうだ……(笑