そんなに混んでいない電車に乗っていたら――
近くの席から、やかましい話し声が聞こえてきました。
中国人のようでした。
顔立ちは明らかに東洋系でしたから――
間違いないでしょう。
年配の男女2人と中年の男女2人の4人連れ――たぶん家族です。
大きなカバンを持っていましたから――
観光旅行中でしょう。
その4人の話し声は――
車内が下手に空いていたものですから――
実際以上に、やかましく響いていました。
その傍若無人ともいえる振る舞い方に――
だんだんとイライラしてきてしまって――
(中国人って、なんであんなにうるさいのかな~)
と――
内心で毒づきました。
4人の振る舞い方が――
……
……
やがて――
電車が観光地の駅に着き――
4人はカバンを持って席を立ちました。
電車の扉は自動では開閉されない仕組みでした。
乗客が「開」ボタンを押さなければなりませんでした。
が――
4人には、事情がわかりません。
扉の前で立ち往生をしていると――
たぶん――
このことを予期していた車掌さんが近寄ってきて――
代わりに「開」ボタンを押してあげたのですね。
そうしたら――
さも当然という顔つきで無言のうちにホームへ降りていくのか――
あるいは――
例のやかましい中国語で文句をいいながら降りていくのかと思いきや――
……
……
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」
たどたどしい日本語で――
でも、柔和な笑顔を見せながら――
4人は繰り返し例を述べて――
ホームへ降りていったのです。
……
……
(ああいうことを、ふつうの感じでやられると、ぜんぜん憎めないな)
と思いました。