岡山に住む友人と仕事でメールのやりとりをしていて――
先月、
――「震災後の石巻で幽霊がタクシーに乗ってきた」という噂をテーマに卒論を書いた大学生がいるそうだが、宮城で話題になっているか。
と――
訊かれました。
僕は――
そういう卒業論文を書いた大学生のことは知りませんでしたが――
石巻のタクシー運転手さんのほとんどが、
――たぶん津波で亡くなった人を、客として乗せた。
という主旨の体験談を耳にしていることは知っていました。
ですから、
(そんな卒論を書く学生さんがいても、不思議はない)
と思っていましたが――
*
きのう、知りました。
その記事によれば――
先月の報道では――
反響は大きかったものの、
――幽霊
という言葉に注目が集まり――
やや的外れの支持や批判が寄せられたそうです。
――やはり、幽霊は実在するのだ!
とか、
――非科学的な内容であり、論文とはいえない。
とか――
卒業論文のテーマは、「幽霊」ではなく、
――幽霊現象
でした。
幽霊体験を核とする社会現象を心理学的に考察することに――
狙いがあったといいます。
(なるほどね)
と納得しました。
幽霊はともかく、幽霊体験は実在しますから――
当然ながら、「幽霊現象」も実在するといえましょう。
*
2011年3月の震災では――
津波の襲来により大勢の人が突然に命を落としました。
人の心は、身近な人たちの突然の死を容易には受け入れません。
とくに、津波にさらわれて行方不明になったままで死亡認定を受けた場合は、遺体が残されていないために、なかなか死を受け付けられないのです。
それでも、どうにか受け付け、受け入れようとする過程で――
人の心は、幽霊の存在を想定したり、その気配を知覚したりすると考えられます。
これが幽霊体験の原理であろう、と――
僕は考えています。
震災では――
1万8千人あまりが亡くなりました。
幽霊体験をした人たちは、もちろん被災地の各所にいるはずですが――
少なくとも「5分の1」に匹敵する人数が、石巻市に集中していることは、間違いないでしょう。
そうした人たちが、震災後の石巻で、それとなく緩いネットワークを形成し――
固有の社会現象が形成されていった可能性は、大いにあると感じます。
前述のネット・ニュースを読んでいて、とくに印象的であったのは――
幽霊体験をした人たちの多くが、
――興味本位に「幽霊」というな。あの世に行けずに、さまよっている人も、人であることに変わりはない。
と諭していることです。
あるいは、
――あれだけ多くの人たちが亡くなったのだ。今もさまよっている人が何人かいたとして、何の不思議があろう。
とも――
こうした感覚が特段に奇異とは思われない雰囲気が――
津波の被災地には拭いがたく残っているようです。