現実というのは、どうしようもなく複雑怪奇なもので――
そこに何がしかの意味を見出すことが、なかなかできないものですが――
こうした現実の断片を材料に、一から虚構を組み立てていくことで――
人は、そに何がしかの意味を見出しやすくなります。
例えば――
北宋末期という、わかりにくい時代を舞台とし――
宋江という、朝廷への反乱者でありながら朝廷に懐柔されていくという矛盾に満ちた人物を主人公としています。
わかりにくい舞台で矛盾に満ちた主人公が活躍する物語など――
ふつうは支持されません。
が――
その虚構の物語が伝えたがっている現実の記録に――
何か重大な意味が見出せるのなら――
物語は、世に広く、熱く支持されるのです。
『水滸伝』の物語が、今日まで幅広く語り継がれてきた事実は――
中国・北宋末期という大味の混沌の時代や、権威に抗いながらも認められたいとする人情の襞(ひだ)に――
何か重大な意味を見出す人々が多いことを示唆しています。
そうした人々の思いを――
『水滸伝』は、虚構の効力を存分に発揮させたことで、巧みに掬(すく)いとってきた――
といえましょう。
*
子どもの頃に知った物語で――
どうしても、その面白さがわからなかった物語の一つに、『水滸伝』があります。
40歳を過ぎた今――
(ああ、そういうことか)
と――
その面白さが、ある程度は、わかってきたつもりです。