人は――
たかだか100年くらいしか生きられない存在なのに――
なぜか――
千年前や1万年前、10万年前に思いを馳せることができ――
かつ――
千年先や1万年先、10万年先に思いを巡らせることができます。
こうした時間の経過を把握する心の働きは――
人類社会の繁栄に、たぶん肯定的に作用してきたと思いますが――
かといって――
良いことばかりではありませんよね。
時間の経過を把握できるばかりに――
自分が生まれる遥か前の出来事に衝撃を受け――
自分が死んだ遥か後の出来事に恐怖を覚える――
こういう心の動きは――
はっきりいって、
――余計な心理的負担――取り越し苦労
以外の何物でもありません。
が――
こうした“余計な心理的負担”と引き換えに――
人類は、今日の繁栄を手にしたともいえます。
具体的には――
先祖が編み残した歴史に学び――
そこから学びとった知恵を子孫に伝え継がせることで――
人類は、今日の文明社会を築き上げることができたのです。
それは――
紛れもなく、共感的な発想であり、利他的な行動でした――先祖も子孫も、厳密な意味では、他者ですから――
人類の一人ひとりが、まったく共感的でも利他的でもなくて、むしろ唯我的で利己的で――
自分に割り当てられた、たかだか100年の寿命を費やすことだけに、汲々としていたならば――
人類は――
今日の繁栄を手にすることはなかったはずです。