組織の構成員に向かって、
――邪悪であるな。
と戒告するのと、
――正善であれ。
と奨励するのとでは――
どちらが組織のためになるでしょうか。
……
……
――邪悪であるな。
といわれれば――
組織の構成員は、邪悪であるか正善であるかハッキリしないことにも――
それが組織のためになると思えば――
手を出すことでしょう。
組織の構成員は、より高い自由度を手にすることになります。
一方、
――正善であれ。
といわれれば――
組織の構成員は、正善であるとハッキリわかることにしか手を出さないことでしょう。
その分――
手にする自由度は低くなります。
よって、
――邪悪であるな。
といえば――
組織は、より柔軟で創造的な活動ができるようになるでしょう。
が――
中には、うっかり邪悪であることに手を出してしまう者があるかもしれない――
一方、
――正善であれ。
といえば――
そうした心配はなくなりますが――
おそらく――
組織は、より硬直で画一的な活動しかできなくなるでしょう。
……
……
では――
組織の指導者は――
目の前の組織の構成員に対し――
どのように戒告ないし奨励をしたらよいのでしょうか。
……
……
この際に有効なのが――
その組織が取り組んでいる課題の性質です。
利益獲得型か、損害回避型か――
利益獲得型は、山師に代表される課題で――
再帰可能な範囲での損害を甘受しつつ、試行錯誤を重ね、いつか巨大な利益を獲得することが目標です。
損害回避型は、踏切番に代表される課題で――
巨大な利益は求めず、再起不能はもちろん再起可能な損害をも、できる限り回避し続けることが目標です。
……
……
もし、その組織が――
利益獲得型であれば、「邪悪であるな」の戒告が適当です。
損害回避型であれば、「正善であれ」の奨励が適当です。
……
……
世界的に有名な某インターネット関連企業は――
「邪悪であるな」を社是としているそうです。
が――
その持ち株会社は、「正善であれ」を社是にしているのだとか――
……
……
その捻じれが意味するところは、何となく伝わってきますが――
(はたして、それで巧くいくのかな)
とも思います。
子会社は利益獲得型の課題に取り組み――
親会社は損害回避型の課題に取り組む――
そういうことが本当に可能なのか――
ちょっと懐疑的です。