――「自分こそ正しい」という考えが、あらゆる進歩の過程で最も頑強な障害となる。これほどバカげていて根拠のない考えはない。
という言葉は――
19世紀アメリカの作家で詩人のジョサイア・ギルバート・ホーランド(Josiah Gilbert Holland)が残したとされます。
この言葉を――
僕は、たしか30代で初めて知って――
(そりゃ、そうだろう。「自分だけが正しい!」なんて絶対に思ってはいけないよね)
などと深く感じ入ったものですが――
……
……
最近――
何となく違和感を抱くようになりました。
(あんまりアメリカ人っぽくないんだよな~)
と感じたのですね。
やがて、
(原語は、どうなってるんだろう?)
と思うようになり――
きのう――
ちょっとネットで調べてみたところ――
……
……
(そうか。翻訳の問題だったのか)
と――
合点がいきました。
原語は――
おそらくは英語です。
以下のように表されています。
―― Nothing so obstinately stands in the way of all sorts of progress as pride of opinion. While nothing is so
foolish and baseless.
すぐ目につくのは、「自分こそ正しい」に相当する語句がないことです。
該当しそうなのは、「pride of opinion」の部分――ここをふつうの感覚で日本語に訳せば、「意見の誇り」です。
まずは――
ふつうの感覚で訳してみましょう。
――あらゆる進歩を、意見の誇りと同じくらい頑強に妨げるものはない。同じくらいバカらしく、無根拠なものもないのだが……。
実際に和訳を試みるとわかりますが――
この英文では、「nothing」「so」や「while」の解釈が難しいところです。
とくに、「while」には、接続詞と名詞とがあり――
ここでは、接続詞としては、ちょっと異例の用法です。
ですから、
(もしかして名詞?)
と悩むところなのですが――
名詞としても、かなり異例の用法なので――
結局は――
接続詞であると解釈するのが常識的でしょう。
次に――
なるべく自然な日本語に翻訳してみます。
――あらゆる進歩を最も頑固に妨げるのは、意見に誇りをもつことである。最も愚かで無謀なことでもある。
原語の語順を尊重すると、
――最も頑固な妨げとなって、あらゆる進歩を挫くのは、意見に誇りをもつことである。最も愚かで無謀なことでもある。
となります。
……
……
見落とせないのは――
ホーランド自身は、意見に正しさがあるかどうかは問うていなかったらしい――
という点です。
ホーランドが戒めたのは、意見に誇りをもつことであって――
意見が正しいか正しくないかを評することではなかったのですね。
つまり、
――意見には、それが自分の意見であろうと他人の意見であろうと、あるいは、それが正しい意見であろうと正しくない意見であろうと、決して誇りをもってはならない。
ということです。
(そういうことなら、いかにもアメリカ人らしい)
と感じます。