一見、
――不自然
のように思える自然――
というのがあります。
直感的には不自然――つまり、自分の恣意が及んだよう――に思えるのだけれども――
実際には、違う――
という事例です。
典型例は――
医療における偽薬効果です。
薬効成分のない薬(偽薬)を服用したにも関わらず――
薬効があったように感じられる現象です。
服用した当人は、
――症状を和らげたい。
つまり、
――薬効を感じたい。
という恣意をもち、それを自身に及ぼすことによって――
服用という行為の、
――不自然
に至っているわけですが――
実際には、薬効成分のない薬を服用しているわけですから――
薬効があったように感じられる現象それ自体は、恣意が及んだ結果ではなく、恣意が及ばなかった結果――つまり、
――自然
なのです。
人体で偽薬効果が生じるメカニズムは――
ほとんど解明されていません。
なぜ解明されていないのか――
人の意識がどのように生じているのか、という根源的な問いに――
深く根ざしているからです。
恣意の発生の源は人の意識――自我意識――と考えられますから――
その“源”のことがよくわからないうちは――
偽薬効果のメカニズムは、もちろん――
一見、“不自然”のように思える自然が、なぜ存在しうるのか、といったことも――
解明されようがないのですね。
が――
……
……
解明されようがないからといって――
そうした不自然らしい自然の存在を――
無視することはできません。
現に――
医療現場では、偽薬効果を考慮に入れた治療方針が採られることが珍しくありません。
……
……
僕らは――
自然と不自然との境界には――
人の意識の成り立ちという深遠な問題が横たわっている――
ということを肝に命じつつ――
その、
――不自然らしい自然が存在しうる。
という現実を――
直視する必要があります。