マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

感情の制御はモグラ叩き

 ――肉体労働

 とか、

 ――頭脳労働

 とかといいますね。

 主に体を使って働くことを「肉体労働」、主に頭を使って働くことを「頭脳労働」といいます。

 わかりやすい分類です。
 古くから知られています。

 ところが――
 20世紀後半頃から、こうした「肉体・頭脳」の二項分類とは別に、

 ――感情労働

 という概念が注目されるようになりました。

 感情の制御が職務の遂行に必須な労働のことをいいます。
 自分の表情や口調、態度を常に職務の規定通りに演出し続ける労働です。

 いわゆる接客業のほか――
 医療・福祉職――
 教育職――
 公務員――

 身に危険が及ぶ現場でも常に平静を保つことが求められるという意味では――
 警察官や消防士、軍人なども感情労働に従事しているといえます。

 こうした感情労働は――
 もちろん、

 ――不自然

 です。

 感情の制御は、恣意を及ぼすことが必須だからです。

 よって――
 感情労働の不自然の様相は――
 とくに強調されるところです。

 が――
 それをいうなら、肉体労働も頭脳労働も、すべて不自然です。

 恣意を及ぼさない労働など、存在しえないからです。

 では――
 なぜ感情労働の不自然が、近年になって注目をされるようになったのか――

 ……

 ……

 それは――
 一言でいえば、

 ――感情の制御の原理的な困難性

 に――
 人類が、ようやく近年になって、気づいたからです。

 感情の制御は――
 感情の発現が心の無意識の領分に属するがゆえに――
 常に後手を踏みます。

 先手を打って感情を制するということは――
 原理的にできません。

 感情が巻き上がってから――あるいは、巻き上がりかけてから――
 それを慌てて抑えにかかるのが、感情の制御です。

 よって――
 感情の制御の達成は、なかなか実感できません。

 ――ああ、たしかに自分は感情をしっかりコントロールできている。

 と自信をもって感じ入ることのできる人は――
 ほとんど、いないのです。

 それは――
 モグラ叩きゲームをパーフェクトにプレイし続けるようなことだからです。