――感染
という概念は――
少なくとも医学的には――
そんなに単純ではありません。
一般には、
――微生物などの病原体がヒトの個体の内部へ侵入をし、定着をし、増殖をすることで、その個体が特有の症状・徴候を発すること
が、「感染」と呼ばれています。
ここでいう「症状」とは、
――患者が自覚しうる不具合
のことであり、例えば、痛みや気だるさなどを指します。
一方、「徴候」とは、
――患者の周囲の人々によって他覚されうる不具合
のことであり、例えば、発熱や咳などを指します。
以上のような「感染」の定義に対し――
もう少し厳密に「感染」を用いる場合があります。
すなわち、
――微生物などの病原体がヒトの個体の内部へ侵入をし、定着をすることまでを「感染」と呼び、病原体が増殖をすることで、その個体が特有の症状・徴候を発することは「感染症」と呼ぶ。
という考え方があるのです。
どういうことか――
……
……
実は、
――不顕性感染
という言葉があるのですね。
意味は、
――感染は起こっているが、感染に特有の症状や徴候は発していない状態
です。
この対義語は、
――顕性感染
です。
意味は、
――感染が起こっていて、かつ感染に特有の症状や徴候を発している状態
です。
この考え方によれば、
感染 ≠ 感染症
であり、
不顕性感染 ≠ 感染症
顕性感染 = 感染症
ということになります。
以上は――
あくまで日本語圏での話であり――
英語圏では少し違う話になるのですが――
要点は同じです。
すなわち、
――病原体が体へ侵入をし、定着をしたからといって、必ずしも体が不具合をきたすとは限らない。
ということです。