――“病的な体験”に対し、対症療法を十分に行う場合と不十分に行う場合とで、その後の経過に差が出る。
との命題を扱うときには、
――“その後の経過”に本当に差が出ていることを厳密に示すには非人道的な観察が必要であり、それは事実上、不可能である。
との留保の他に、
――“対症療法”で主に用いられる薬剤が、どのようにして“病的な体験”を和らげているかについては、よくわかっていない。
との留保を念頭に置く必要がある――
ということを、きのうの『道草日記』で述べました。
この“病的な体験”を和らげるとされる薬剤については――
なかなかに興味深い事実――経験的な事実――が知られています。
それは、
――薬剤の効果が十分に現れるまでに 30 日くらいを要しているらしい。
ということです。
この薬剤を毎日、飲むようにすれば、多くの場合に、1 ~ 3 日くらいで効果が現れ始めるのですが――
効果が現れ始めた後も、どういうわけか 30 日くらいの間は、その効果がジワジワと強まっていくらしいのですね。
薬剤によっては、100 日くらいの間、効果がジワジワと強まり続けているように感じられることもあります。
こうした事実も――
例によって、人道上の制限を受けるために――
厳密な証明を行うことは、ほぼ不可能なのですが――
少なくとも、現代の精神医療の現場では、多くの医療従事者が漠然と感じている“経験的な事実”であることは、ほぼ間違いありません。
さらにいえば――
この“ジワジワと強まる効果”は、あくまでも薬剤を毎日、飲み続けることによってのみ、期待をされえます。
途中で飲むのをやめてしまえば、ほとんどの場合で、飲み始める前の状態――“病的な体験”によって苦しめられていた状態――に逆戻りをしてしまうのです。
薬剤を用いた治療が、
――対症療法
とみなされる理由も――
ここにあります。