好きな女の子から、
「あんた、あたしのこと、好きなんでしょ」
といわれ、ついカァとなって、
「うるせえ、バカ!」
と、どなってしまった 10 才くらいの男の子の話を――
きのう、しました。
この男の子が、いわゆる、
――恋愛の気持ち
をもっていたことは、たしかでしょう。
が――
この男の子の心の中では、
――恋(こい)
と、
――愛
とが、まったく繋(つな)がっていませんでした。
もし、繋がっていれば――
男の子が「うるせえ、バカ!」と、どなってしまうことはなく――
また、うっかり、どなってしまったとしても――
そのあとで反省をし、何らかの謝(あやま)りを入れ、口もきかないような仲たがいが続かないような努力をしたはずです。
が――
そのような努力をしなかったのですから――
男の子は、女の子を愛してはいなかったのです。
まあ――
無理もありません。
「あんた、あたしのこと、好きなんでしょ」
といってしまうような女の子を愛するのは、少なくとも 10 才の男の子には、なかなかに大変です。
ひょっとすると――
その女の子は、男の子が話をしやすくするために、わざと冗談っぽく口に出していったのかもしれないのですが――
かりに、そうであったとしても――
その気づかいは男の子には、まったく通じていなくて――
その男の子に愛されることは、ついに一度もなかったわけです。
つまり――
男の子は女の子を愛さなかった――
が――
たぶん、恋してはいました。
――あんた、あたしのこと、好きなんでしょ。
といわれて――
愛することはなかったけれど、恋してはいたのです。
なぜ、わかったかというと――
中学生になっても、あいかわらず――
その女の子の前では、ぎこちない様子でいたことが、同級生たちに知られていたからです。
――あんた、あたしのこと、好きなんでしょ。
といわれたことを知っている人たちは、
――今でも、あの人のことが本当は好きなんだな。
と、すぐにわかったといいます。
『10 歳の頃の貴方へ――』