人の世の中というものは――
無人島とは、わけがちがう――
と、きのう、のべました。
食べ物や飲み物をかんたんに手に入れることができるし――
あぶない動物に追いまわされるようなこともない――
お金(かね)をもってお店へ行けば、食べたり飲んだりはできるし――
お家(うち)に入ってカギをかければ、安心をして休むことができる――
と――
……
……
――人の世の中
とは、いったい、どういうものなのでしょうか。
……
……
――人の世の中
は、人と人との約束事から成り立っています。
お金をもっていれば、食べ物や飲み物を手に入れられるのは――
売り買いに関わる約束事が、人の世の中では十分に行きとどいているからです。
お家に入っていれば、とりあえずは安心をしていられるのは――
危険を取りのぞく約束事が、人の世の中では十分に行きとどいているからです。
うらを返すと――
もし、そのような人と人の約束事が一切なくなってしまえば――
人の世の中は、もう、人の世の中ではありえなくなってしまいます。
無人島と同じです。
人は自分の知力や体力をふりしぼり、運だけをたよりに――
この世の中を生きぬいていかなければなりません。
それでは、あまりにも大変であるから――
人は、ほかの人たちと数多くの約束を複雑(ふくざつ)に交わしあうことによって、たがいに助け合いながら生きていくと決めました。
だいたい 3 万~ 10 万年くらい前のことと考えられています。
このように――
たくさんの約束事から成り立っている世の中――人の世の中――を作りあげたことで――
ヒトは、この地球上で、いちばん繁栄(はんえい)している生き物となりました。
――ヒト
というのは、
――生き物として人
という意味です。
そのような世の中を――
ヒトが、もし作りあげたりしなかったならば――
ヒトは、今でも人にはなっていなかったでしょう。
『10 歳の頃の貴方へ――』