――足し算を知らなくても掛(か)け算はできる。
という体験がありうる――
ということが、
――ABC予想
によって間接的(かんせつてき)に示(しめ)されている――
と、きのう、のべました。
……
……
――足し算を知らなくても掛け算はできる。
……
……
本当に――
そんなことが、ありうるのでしょうか。
……
……
その問いに答えるには――
その逆(ぎゃく)――つまり、
――掛け算を知らなくても足し算はできる。
という体験が、なぜ、ありふれているのかについて――
考えることです。
ぼくらが小学生のころから習ってきた算数・数学は――
実は、
――足し算
から始まっています。
原始の昔――
人は、
1、2、3、4、5、……
という整数の在(あ)り方に自然と気づいた――
と考えられています。
それに気づいたときに、
2 = 1 + 1
3 = 2 + 1
4 = 3 + 1
5 = 4 + 1
:
:
という足し算を――
人は無意識(むいしき)にやっていたはずです。
ぼくらが小学生のころから習ってきた算数・数学が、足し算から始まっているのですから、
――掛け算を知らなくても足し算はできる。
という体験は、とても、ありふれたこと――というより、「ごく当たり前のこと」――なのですね。
では、
その逆――つまり、
――足し算を知らなくても掛け算はできる。
という体験が、ありふれたことであるためには――
どんなことが必要でしょうか。
もちろん、
――算数や数学が、足し算からではなく、掛け算から始まっている。
ということが必要です。
そんな算数・数学が、ありうるのか――
……
……
ぼくらの感覚では――
ちょっと、ありえそうにもないのですが――
――ABC予想
が間接的(かんせつてき)に示していることは
――ありうる。
です。
それは――
例えば、
1、2、4、8、16、……
という整数の在り方に気づかれることによって始まる算数・数学です。
そのようにして算数・数学が始まるときには、
2 = 1 + 1
3 = 2 + 1
4 = 3 + 1
5 = 4 + 1
:
:
という足し算の代わりに、
2 = 1 × 2
4 = 2 × 2
8 = 4 × 2
16 = 8 × 2
:
:
という掛け算が――
無意識に行われていることでしょう。
『10 歳の頃の貴方へ――』