マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

我こそ亡国ルーシの再興者たらん

 東欧・北欧の専制国家ルーシを、13世紀初頭、東方から襲ったのは、

 ――草原の帝国

 モンゴルだった。

 

 初代君主チンギスの時代に――

 武力偵察を狙ったと考えられる小規模な侵略があり――

 二代君主オゴデイの時代に――

 本格的な侵略が始まった。

 

 ルーシでは、相も変わらず、何人かの有力な諸侯たちが割拠をし、互いに争っていた。

 

 それでも――

 父祖伝来の国家が征服をされる危機を察して――

 ルーシの諸侯たちは、互いに反目をやめ、協力に転じ、防衛に当たろうとした。

 

 辛うじて、

 ――1つの国家

 の体裁が蘇った。

 

 が――

 防衛のできる相手ではなかった。

 

 モンゴル軍は――

 ほぼ全てが騎兵で構成をされていたという。

 

 モンゴル高原で幾多の激戦を勝ち抜き――

 これを統べ――

 その後――

 ユーラシア大陸の広大な草原で緻密に錬成をされていった騎兵である。

 

 その俊敏な機動力と柔軟な統制力とは――

 ルーシの諸侯たちの常識を超えていた。

 

 少なくとも、彼らが常識としていた騎兵ではなかった。

 

 モンゴル軍は分散と集結とを自在に繰り返せたという。

 

 分散によって、敵軍にも分散を強い――

 集結によって、分散の敵軍を各個に囲み、一つひとつ屠った。

 

 それは、「戦闘」ではなく、「虐殺」というべき一方的な戦いだった。

 

 ルーシの諸侯たちの軍は、各個に撃破をされ、城塞は壊され、領民を殺され、領地を荒らされて――

 大混乱に陥った。

 

 その中で――

 ルーシの君主――大公――の地位や権威は永遠に失われた。

 

 その前から実質的に失われてはいたが――

 モンゴルに征服をされたことで――

 名目的にも失われた。

 

 ルーシの諸侯たちは、草原の帝国への隷従を受け入れ、その版図に組み込まれながらも、

 ――我こそ亡国ルーシの再興者たらん。

 と念じつつ――

 捲土重来を期すようになった。

 

 辛うじて蘇った、

 ――1つの国家

 の体裁が――

 残像を結んでいた。

 

 以後、2世紀半ほどの間――

 ルーシの諸侯たちは、屈辱に塗れて過ごすことになる。

 

 『随に――』