マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

『枕草子』のこと

 NHK『まんがで読む古典』シリーズを御存じでしょうか。
 1988年から1992年にかけて放映された人気番組です。
 ものマネで有名な清水ミチコさんが司会を務められました。

 実は、このシリーズ――1作目だけは『まんがで読む枕草子』なのですね。他は『まんがで読む古典 ○○○』という体裁なのに――

 橋本治さんの『桃尻語訳 枕草子』を基に、NHKが野心的に製作した番組でした。
 これがヒットしたために、以後、『まんがで読む古典』シリーズが花開いたのです。

 高校1年のとき――
 古典の先生が興奮気味におっしゃった言葉を覚えています。

 ――あの橋本治の訳は凄いですよ。

 橋本さんといえば、東京大学駒場祭ポスターのコピーで有名です。

 ――とめてくれるな おっかさん 背中の銀杏が泣いている 男 東大どこへ行く

 というやつですね。

 これを、その古典の先生も引き合いに出され、

 ――言葉のセンスに優れた人は、古典の訳もズバ抜けている。

 というようなことを、おっしゃったように記憶しております。

 当時は、
(なるほど)
 と思ったりしたものですが……。

 最近、違うことを感じ始めました。

 言葉のセンスに優れた橋本さんが『枕草子』を訳したのではなく――言葉のセンスに優れた『枕草子』が橋本さんを引き寄せたのではないか、と――

 ――春はあけぼの。やうやう白くなりゆく、山ぎは、すこしあかりて、紫だちたる雲の細くたなびきたる。

 どうやったら、こんな文章が書けるのか、と思います。

 そして――
 どうやったら、こんな文章を訳す気が起こるのか――

 ――春はあけぼの。だんだん白くなってく山際の、ちょっと明るくなって、紫っぽい雲が細くたなびいてる感じ(マル太訳)

 訳してみて、かなり後悔――
 
 ちなみに、橋本さんの訳は、まだ、みておりません。
 みよう、みようと思いつつ、15年がすぎております。