この世に難しいことは、山ほどあるが――
わけても難しいのは、男女のことだと思っている。
これほどに理詰めがきかず、また先読みがきかぬことも、ないのではあるまいか。
誰かが誰かを好きになるときに――
好かれたほうも好きになったほうを好きになることは、ほとんど、ありえぬといってよい。
男女の馴れ初めというものは、どういうわけか、必ずといってよいほどに、非対称な関係で始まる。
何という不条理だろうか。
まれに、対称な関係で始まることがあるという。
相思相愛の仲で始まるということだ。
そして――
さらに驚くことに、そのまま自然と結婚に至り、おしどり夫婦として、末永く共に暮らしていく――
そんな男女もあるらしい。
ほとんど都市伝説の域だと、僕は思っている。
たいていは、非対称な関係で始まり、途中、曲がりになりにも対称な関係に落ち着くことがあれば、いいほうで――
ほとんどの場合は、一緒にいる大部分の期間を、非対称な関係で費やす――
そういう男女が、圧倒的に多いと思っている。
が、それゆえに――
僕は男女のことに並々ならぬ関心をよせる。
よせずには、いられない。
その不条理が壮絶であるがゆえに、どうにも気になって仕方がないのだ。
これが僕の文芸活動の源の一つであることは、間違いない。