物語が生まれ、人間が生まれる――
決して、その逆ではない――
そう思っている。
例えば――
雄が雌を欲し、どうしようもなくなったときに――
そういう状態に陥った雄や雌に、何者かが、
――恋
という物語を描き添えた。
そのときに――
雄は男になり、雌は女になった。
――物語が生まれ、人間が生まれる。
とは、そうした意味である。
つまり――
物語が人間を生み、人間を育てた。
物語以前には、人間は人間以前であった。
かつて、
――物語が人生を模倣するのではない。
と主張した哲学者が、いたそうである。
――人生が物語を模倣する。
と――
たぶん、僕も同じようなことがいいたいのだ。
人間は、本来、頭でっかちの存在だと思っている。
自分の頭が勝手に紡ぎ出す物語に、ガンジガラメに縛られながら、生きている。
良い意味でも悪い意味でもなく――
ただ、そういう人間の生の現実がある、ということだ。
ときどき、
――考える前に行動しろ。
という人があるけれど――
僕にいわせれば、軽率な物言いだ。
――自分が頭でっかちである現実を受け入れるな。
といっているようにきこえる。
(ちょっと不毛だろう)
と思う。
ときには――
不毛では済まされない。
危険ですらある。
物語は、平気で人間を殺す。
戦争という名の物語が、その代表である。