マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

原点からの距離をみよ

 作家が、それぞれに大切にしている美点というのは、千差万別である。
 ある作家にとっては優れたことが、別の作家にとっては劣ったことである。

 だから――
 作品の評価は、常に原点からの距離で計られねばならない。

 原点というのは――
 例えば、数学でいうところの xy座標系 の原点である。

 具体的に記述すると――
 Aという作品を座標(3, 4)で評価し、Bという作品を座標(-3, -4)で評価したとして――
 このとき、AはBよりも優れた作品である、とはいえないということだ。

 Bの座標値のマイナスは、とくに意味を成さない。

 強いていえば――
 Aの基準でBを評価すれば駄作であり、Bの基準でAを評価すれば駄作である――
 ということを意味している。

 ところで――
 もし、ここで、Cという作品を座標(30, 40)で評価した場合には、やや様相が異なる。
 この場合、CはAよりも格段に優れた作品であるとみなしてよい。

 もっとも、この場合でも、Bの基準でCを評価すれば駄作である。
 しかも、Aよりも格段に酷い駄作ということになる。

 では、BとCとは比較できないのか。

 そうではない。

 BとCとを比較するときは――
 原点からの距離に着目をする。

 原点からの距離は、Bが5であり、Cが50である。
 つまり、Cのほうが圧倒的に優れた作品ということになる。

 大切なのは、

 ――ベクトルではない。

 ということだ。

 座標(1, 2)よりも座標(-10, -20)が――
 座標(-20, -30)よりも座標(-200, 300)が――
 座標(-200, 300)よりも座標(3000, -4000)が――
 格段に優れた作品である――
 ということが大切なのである。

 第1象限の作家が第3象限の作家を侮辱する――
 あるいは、第3象限の作家が第2象限や第4象限の作家を侮辱する――
 これほど不毛で滑稽なことはない。

 が、世間では、このような評価が横行している。

 それこそ、不毛で滑稽なことだ。