ある日、突然、億単位のカネを手にしたら――
いったい、どうなることであろう。
例えば、宝くじなどで――
一気に3億円ほど手にしたら――
3億円ということは――
年間1千万ほど使ったとしても、30年はもつ。
ということは――
例えば、僕は今年で34になったのだが――
もし、今、僕が3億円を手にしたら――
64までは何もしないで食べていける、ということだ。
年間1千万円というのは、結構な額である。
仮に結婚し、子を儲けても、まったく問題はない。
が――
*
悲しいことに、もし、本当に3億円を手にしたら――
そのようには考えられないのが、人間である。
その3億円を――
30年かけてチビチビ使おうとは――
たぶん、つゆとも思わない。
――この3億円で、何か、どえらいことをやってやろう!
となってしまう。
少なくとも僕は、そうなるに違いない。
まだ手にせぬ3億円だからこそ――
大事に使おうとするのである。
一旦、手にしてしまったら――
そのありがたみは一瞬で霧消する。
そのとき、人は――
底知れぬ喪失感に気づくかもしれない。
時折、宝くじの1等賞券を、故意に置き忘れる人があるそうだが――
そうした人は、その喪失感に耐えられなかった人であろう。
3億円のありがたみの喪失感――
30年間、好きなことだけして楽に生きられるのに――
そのありがたみが、ある日、突然、わからなくなる――3億円を手にしたばっかりに――
たしかに――
これは恐怖に違いない。
今の僕なら、
(30年間、できれば好きなことだけして生きていたい)
と思える。
たぶん、それが最も幸せな一生だから――
が――
ある日、突然、3億円を手にすると――
たぶん、そんな風には思えなくなるのだ。
何が幸せなのかが、わからなくなる。
そんな喪失感に襲われるなら――
1等賞券を、どこかにポイと捨てるのもよい。
カネを失うより、自分を失うほうが、悲惨である。
少なくとも僕は、そう思う。