恋と愛との区別は、女性より男のほうが、つけやすいのかもしれない。
僕自身は、30歳になる頃には、リアルな感覚として、区別がついていた。
同性の友人と話をしていても、
――だいたい30を境に区別がつくようになった。
と考えているケースが多いようである。
これに対し、女性は違うらしい。
恋と愛との違いに敏感な女性は――
少なくとも僕の周囲には――
ほとんどいないといってよい。
これは、僕の周囲だけではないようである。
昨夜、池袋の東京芸術劇場で辛島美登里さんのコンサートがあった。
辛島さんは恋愛の唄などで高く評価されているシンガーソングライターだ。
デビュー後、20年近くが経っている。
実力派のベテランだ。
その辛島さんが、昨夜のコンサートで、
――10年くらい前は、まだ愛と恋との区別がついていなかったと思う。
と発言された。
僕は客席で、
(えー!)
と思わず、のけぞりそうになった。
あの辛島さんでも、そうなのだから――
そうなのであろう。
一般に、女性は、恋と愛との区別に気づきにくいようだ。
理由は、たぶん男のほうにある。
男が、恋と愛とを、あまりにも容易に区別しているからである。
どういうことか――
これは――
今のところ、僕一人の考えなのだが――
男にとって、恋とは、多分に身勝手なものである。
男が恋に突き進むとき――
男は心身ともに攻撃的だ。
周囲の迷惑など考えられる状態にない。
だから――
男は、恋を愛で包み込む。
愛は、いわば恋のオブラートである。
つまり――
男は自分の恋心を制御できるようになったときに、恋と愛とを区別する。
これに対し、女性の恋心は、もっと慈愛に満ちたものなのであろう。
それがいいすぎなら――
女性の恋心は、男の恋心よりも非攻撃的である――
としておく。
男の場合、恋は性的衝動に根ざしている。
性的衝動に突き動かされるとき、男は、女性には、とうてい理解しえぬ猛々しさをまとっている。
この猛々しさが、男をして、恋と愛との区別を容易ならしめている。