マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

従容と逝かれたか

 ジャーナリストの筑紫哲也さんが亡くなりました。

 肺がんを患っておられることが報道されていましたから――
 ひどく驚いたということはなく、
(ついに亡くなられたか)
 との感慨のほうが、強く湧き出ました。

     *

 ひと昔半ほど前のことです。

 どなたであったかは失念しましたが、

 ――久米さんは変化球で、筑紫さんは剛速球だ。

 と評価された方がいます(永六輔さんだったか、田原総一朗さんだったか、あるいは他の方だったか――)

「久米さん」とは、久米宏さんのことで――
 当時、人気絶頂だった報道番組『ニュースステーション』でメインキャスターを務めておられました。

 筑紫さんの『NEWS23』は、その『ニュースステーション』の1時間遅れで放映されていました。

 ですから――
 その方がおっしゃったことには、

 ――僕は、まず久米さんの変化球を楽しみ、次いで、筑紫さんの剛速球に唸る。

 です。

 久米さんの「変化球」は、よくわかりました。
 が、筑紫さんの「剛速球」は、よくわからなかったのです。

(あんなソフトで物静かな語り口の人が、なんで「剛速球」なんだろう?)
 と、本気で首を傾げていました。

 たしかに、語り口はそうなのですが――
 その語り口が伝える内容は、まさに「剛速球」だったのですよね。

 ご自分の見解を、ときに歯に衣着せぬ物言いで開陳されるので――
 筑紫さんと対立する見解をもった人は、ものすごく腹を立てたのだそうです。

 実際、僕の大学時代の同級生で、筑紫さんを口汚く罵っている者がおりました。

 その彼の様子を目の当たりにしたときに、
(たしかに、筑紫さんは「剛速球」だ)
 と実感できました。

 そのような「剛速球」を投げ込むために、相当な勇気を必要とされたでしょうね。
 そして、相当なストレスを溜め込まれたことでしょうね。

 そのストレスが肺がんの発病に結びついたと解釈するのは、そんなに突拍子もないことではありません。

 ご自分のジャーナリストとしての生き方にケジメを付けるかのように――
 従容と逝かれたような気がしてなりません。