――子をもつことは、正真正銘の自己とは別に、自分自身以外の「自己」をもつことだ。
という考え方があります。
つまり――
我が子とは自己が外部に派出して分裂したような存在である、と――
例えば――
親は、我が子の痛みや喜びを我が事のように感じられるようになって初めて、親として一人前である、と――
あくまでも自己なのであって自我ではない、というのがポイントです。
自我と自己との違いというのは――
例えば、一人で内省をするときに、自己をみつめているのが自我であり、自我によってみつめられているのが自己です。
我が子は自分自身以外の「自己」であるといっても――
自我が派出して分裂をするわけではないのですね。
分裂をするのは――あるいは、分裂したかのような錯覚を起こすのは――あくまでも自己であって、自我ではない――
ということは――
我が子というのは、
――自我なき自己
ということになります。
逆に、自分自身は、
――自我あり自己
ということになります。
「自我なき自己」と「自我あり自己」とでは、どちらが御しやすいか。
当然、「自我あり自己」でしょうね。
自我が自己を直接的に制御するのですから――
「自我なき自己」での「自我」は我が子の自我です。
つまり、他者の自我――我が子といえども、他者は他者です。
他者の自我を通して「自我なき自己」を間接的に制御するのですから――
その機序は恐ろしく繁雑でしょうね。