ベルリンで行われている陸上競技の世界選手権で――
男子100メートル走で、ジャマイカのウサイン・ボルト選手が世界記録を出しましたね。
――9秒58
だそうです。
どのスポーツ・ニュースも大きく取り上げましたが――
僕個人は、かなり冷めていました。
(また、あとでひっくり返ったりしないの?)
と――
*
1988年のソウル・オリンピックで、カナダのベン・ジョンソン選手がアメリカのカール・ルイス選手を破って世界記録「9秒83」を出したときに――
僕は、その模様を実家の居間のTVでみていました。
当時、中学生でした。
TV画面の中でのこととはいえ――
世界記録が打ち立てられた瞬間を目の当たりにした興奮は、今も覚えています。
そして――
その後の虚脱の感覚も――
ジョンソン選手は薬物使用を疑われ、金メダルを剥奪――
世界記録が後戻りしました。
(なに、それ?)
僕は本当にガッカリしたのですよ。
その後遺症は、今でも残っているようですよ。
ボルト選手の快挙を素直に認める気持ちになれないのが、その証です。
当時から、
――薬物使用は子供たちの夢を奪う。
といった論調がマスコミを賑わせていましたが――
たしかに、「夢を奪った」のでしょうね。
当時、中学生であった少年が、30代半ばになって世界記録樹立のニュースに冷めきっているのですから――
「子供たちの夢を奪う」ということの実態は、
――その子供が大人になったときに、夢に興じられなくなっている。
ということのようです。
ふと思いました。
もし、ソウル・オリンピックの男子100メートル走をTVでみていなかったら――
今頃、ボルト選手の「9秒58」に少しは興奮していたかもしれない、と――