――文学とは何か?
と問われれば、
――文芸の咀嚼の仕方のひとつ
と答えます。
「文芸の咀嚼」とは、要は、文芸を味わうことです。
では、
――文芸とは何か?
と問われれば、
――人の体験の普遍性を文筆で表す芸術
と答えます。
「人の体験の普遍性」とは、人の心が体験する心象のうち、時間や場所の制限を越えうる性質のことです。
時代を越えて国境を越えて人々の心に届く個人体験です。
その個人体験を虚構の形で著わせば、それが小説になります。
一般に、虚構の衣を被せたほうが、個人体験は普遍性が増すようです。
で――
話をややこしくしているのは――
以上に述べた「文学」と「文芸」とが、世間では、しばしば混同されている、という現状です。
本当は文芸なのに「文学」と呼ばれることがある――
「文学」のほうが「文芸」よりも数段ポピュラーな言葉であることが、その証左です。
最近では、文学と文芸とが渾然一体となったものを称し「ブンガク」などと呼称する向きもあるようですが――
わかりませんね。
わざわざゴッチャにしなくてもよいと思うのです。
文学が文芸と違うのは――
天体力学と人工衛星とが違うくらいに違います。
あるいは――
解剖学と外科手術とが違うくらいに違います。
人工衛星を無事に打ち上げる方法論の一部が天体力学です。
外科手術を安全かつ有効に行う方法論の一部が解剖学です。