――高校入試や大学入試の受験勉強は、つめこみ型の暗記が主体で、実社会に出たら何の役にも立たない。
そういわれます。
たしかに、その側面があることは否定できませんが――
本当に実社会で役に立たないのかといわれれば、そうではないでしょう。
受験勉強も実社会で十分に役に立つのです。
表層的なことをいっているのではありません。
例えば、
――受験勉強には、つめこみ型の暗記では通用しない側面がある。
ということを根拠に挙げたいのではありません。
確かにその通りなのですが――
それもまた、受験勉強の側面の一つにすぎません。
では――
なぜ受験勉強が実社会で役に立つといえるのか。
それは――
受験とは、他者から一方的に評価される体験だからです。
実社会に出たら、他者から一方的に評価されるのが当たり前ですよね。
会社に勤めるなら、顧客に評価され――
役所に勤めるなら、住民に評価される――
会社を興せば、市場で評価され――
政治を志せば、選挙で評価される――
具体例を挙げたら、キリがありません。
そうした評価は、皆、相対的です。
絶対的ではない――ある基準があって、それをクリアすれば許されるというものではない――
受験も同じです。
採点者から一方的に評価されます。
しかも相対的に評価されます。
合格点が決まっているわけではない――周囲の受験生よりも優れた成績を残さなければ評価されない――
そのような「他者から一方的に評価される」という関門を前にして、人は、どんな準備を進めればいいのか――
それを考えるのが、受験勉強の最大の課題といってよいでしょう。
確実な準備の方法などはありません。
だって、「採点者から一方的に」なのですから――
採点者が気まぐれを起こすかもしれません。
あるいは、不注意なミスをするかもしれない――
採点者が完璧とは限らないのです。
それは実社会でも一緒です。
他者から一方的に評価されるとき――
その「他者」が完璧とは限らない――むしろ、完璧でないことのほうが自然です。
完璧でない他者に一方的に評価されてしまう――
その厳しさを知る上で、受験勉強は好都合の模擬体験です。