9年前に亡くなった父は、コンピュータについて、
――コンピュータはスゴい。目的のない道具だから――人類は、ついに目的のない道具を発明してしまった。
そういう見方を好んでいました。
父は神経科学者ではありましたが――
コンピュータ科学は素人でした。
ですから、この見方をどこまで妥当とみなすかは微妙なのですが――
それでも――
そういう見方をしていたのが自分の父親であるという事実は、僕にとっては動かし難いのですね。
ですから――
例えば、あるとき急に高校生から、
――コンピュータって何ですか?
と訊かれたら――
迷わずに答えてしまうのです。
――目的のない道具だ。
と――
そう答えることが、教育上、本当に良いことかどうかはわかりませんよ。
返答に窮するよりはマシだろうと思いますけれども――
その辺の危なっかしさは自分でもよくわかっているので――
だから、あとで調べ直したり、考え直したりするハメになるのですが――
とりあえず、自分よりも年若い人たちに質問をされ、瞬時に答えを思い付けるのには助かっています。
父が、自分の思いつきを、幼い息子に、躊躇せずに語っていたおかげです。
僕は、いってみれば、無形の財産を相続したのですね。
ただし――
その思いつきが、甚だ的外れのこともあります。
あとで調べ直したり考え直したりして気づくのです。
そのときは、
(やれやれ)
と思います。
(負債も相続しちゃったな)
と――
普通の意味での遺産相続と全く同じですね(笑