――退き際は難しい。
というのは、しばしば指摘されるところです。
きょう、エジプトのムバラク大統領が辞任するとの報道に触れ――
あらためて退き際の難しさを実感しました。
報道が伝えるところによれば――
一連の辞任劇の背景には――
エジプトの国民は、30年にわたるムバラク大統領の強権政治に嫌気がさして、ムバラク大統領の政治生命が断たれることを望んでいたが――
ムバラク大統領は、そうした国民の望みを受け入れる代わりに、30年にわたる実績を少しは認めてもらって、名誉ある退任を許してほしい――
そういう構図があったようです。
結果は、国民の望む通りとなりました。
ムバラク大統領は、最後は逃げるようにして首都を脱出したと伝えられています。
こうした経過をみると、ムバラク大統領に少しは同情をしたくなりますが――
デモに参加していたエジプトの人々の強硬な態度をみていると、ムバラク大統領にも非はあったでしょう。
やはり、30年は長すぎますよ。
せめて10年くらいで政権を手放していれば、こんなブザマな辞め方を強いられることはなかったかもしれないのに――
もちろん――
ムバラク大統領は30年も政権を維持できた政治家ですから、相当に賢い人なのでしょう。
長すぎる強権政治が自分や自分の身内に及ぼす悪影響を知らなかったはずはありません。
にもかかわらず、10年くらいで後継者に譲れなかった理由は――
政権を手放すことの危険性を感じていたからかもしれません。
よその国では、政治家が国家元首を辞めた途端に逮捕され、投獄された事例があります。
そうした事態を避けるために、ムバラク大統領は、きょうまで政権を握り続けていたのかもしれません。
「退き際は難しい」というのは、このことです。
その「退き際」が本当にブザマなものかどうかは、実は、すぐにはわかりません。
ムバラク大統領のことに限っていうと――
きょうの辞任劇は、今のところはブザマですが――
この後、ムバラク大統領が自分の余生を無事に過ごせ、かつ自分の身内も十分に平穏な暮らしができるのなら、
――実に素晴らしい退き際であった。
と判断されるのです。
ひょっとすると――
20年前に潔く政権を手放して、その後、家族・親族ともども深刻な危害を加えられていたかもしれないのです。
退き際というものは、結局は、なるようにしかならないのかもしれません。