――それをいっちゃあ、おしめえよ!
というのは――
山田洋次さんの映画『男はつらいよ』の主人公・寅さんが、しばしば口にしていた台詞ですが――
この台詞は――
虚構の人物が虚構の世界の中で発するから、味わい深く感じられるのであって――
現実の人物が現実の世界の中で発してしまったら、味わいも何もあったものではありません。
なぜならば――
現実の世界では「おしめえよ!」に相当する発言が数えきれないほどに多く聞かれ――
しかも、それら発言の多くは、現実の世界の真実の内奥を深く突いているからです。
極端な話――
生まれてきた赤ん坊を指し、「この子も、いつかは死ぬ」ということは十分に「おしめえよ!」に相当する発言だと思いますが――
その発言に潜む真実は、誰も否定のしようがないのですね。
それでも――
その赤ん坊は生きていかなければならない――
これまでに生まれてきた全ての赤ん坊と同じように――
「それをいっちゃあ、おしめえよ!」の「それ」は――
実際には、大いに結構なことなのです。
その「おしめえ」を乗り越えて何を成すのか、何をいうのか――
そこにこそ、人生の本質が、たいていは詰まっているのです。