人の用事には、
――私事
と、
――公事
とがあると考えています。
そして――
これら2種の用事に向き合う時の姿勢は――
根本的に異なる、といえましょう。
私事に向き合う時は、少なからずチャランポランがよいと思っています。
――いいよ、そんなとこまで今から決めておかなくて……。
とか、
――その時になれば、たぶん、なんとかなるよ、きっと……。
とか――
私事は、本質的には個人に宛(あて)がわれる要件です。
私事が滞っても――
当人や当人の身内以外は誰も迷惑を受けません。
つまり――
私事というのは――
結局のところ――
いかに個人が心地よく過ごすか、あるいは、いかに個人が人生を楽しむかの案件といっても過言ではありません。
個人が安寧や悦楽を追求するのに、厳しさや緻密さは不要です。
むしろ、寛容さや曖昧さこそが必要とされてくる――
一方――
公事に向き合う時は、そうはいきません――少なからず杓子定規がよいでしょう。
――まさかの時のために、今から備えておこうか。
とか、
――あとで、誰かが困ったりしないように……。
とか――
公事は、本質的には組織に宛がわれる要件です。
公事が滞れば、当人以外の多くの人たち――その組織の内部の人たちや外部の人たち――が迷惑を受けます。
つまり――
公事というのは、私事と違って――
いかに組織が役割を果たすか、あるいは、いかに組織が責任を全うするかにかかっていると、いえるのですね。
組織が成果や誠実を追求するのに、緩さや老獪さは不要です。
むしろ、頑固さや明確さこそが必要とされてくる――
このように――
私事と公事とは、性質が全く異なります。
こうした私事と公事との差異は――
普段から十分に意識しておくことが有意義でしょう。
それは――
今日のような治世においては、もちろんのこと――
たとえ、どうしようもなく乱世に陥ったとしても――
やはり有意義であろうと思います。
乱世の只中で、自分や自分の家族の身を守るには――
私事を公事から区別しておくことです。
乱世の悲劇のほとんどは――
私事が公事に飲み込まれて生じます。