――それが世間の常識だ!
などといわれると――
つい、
――はい! 恐れ入りました!
と、ひれ伏したくなるものですが――
実際には――
その“世間の常識”は、世間の多数派の常識であって――
世間の全員の常識ではないはずです。
世間の全員の常識が一致するということは――
心理学的にみても、統計学的にみても、かなり考えにくいことなので――
「多数派」というのも――
おそらく、実際には、過半数に満たない多数派であることが多いでしょう。
それにもかかわらず、「はい! 恐れ入りました!」と、ひれ伏したくなるのは――
その“過半数に満たない多数派”を、勝手に“全員”だと思い描いてしまうからでしょう。
つまり――
そこに、一種の幻影をみてしまう――
……
……
それは――
間違いなく幻影だと思いますが――
それでも――
そのように思い描いてしまうのが人情というもので――
これは――
いかんとも根絶しがたい人の心の性質であろうと思います。