マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

偶然を“たしかに偶然だ”と断じることの難しさ

 世の中で難しいことの一つに、

 ――偶然に起こった出来事を、“たしかに偶然だ”と断じること

 が挙げられると思います。

 例えば――

     *

 地方都市では、よくあることですが――

 毎朝、通勤時に同じ電車・同じ車両に乗り合わせている人がいたとして――
 その人とは、毎朝ただ顔を合わせているだけで、とくに知り合いでもなんでもないとします。

 そして、ある休日の朝に――
 その人と同じ電車・同じ車両に乗り合わせたとします。

 このとき――
 この出来事を“たしかに偶然だ”と断じることは――
 実は、それほど容易ではありません。

 毎朝、同じ電車・同じ車両に乗り合わせているわけですから――
 その人と自分とは、生活のリズムが似ているのかもしれない――
 休日の生活のリズムも似ているものだから、同じ電車・同じ車両に乗り合わせただけなのかもしれない――

 もちろん――
 例えば、たまたま自分が前日に隣町へ引っ越していて、いつもとは違う駅から乗っていたにも関わらず――
 同じ電車・同じ車両に乗り合わせたのだとしたら――
 それを“たしかに偶然だ”と断じることは、難しくはないでしょう。

 が――
 引っ越しをしたのが自分ではなくて、先方であれば――
 どうでしょうか。

 おそらく、それを“たしかに偶然だ”と断じることは、不可能でしょう。

 仮に、先方が引っ越しをしたとわかっていたにせよ――
 それを“たしかに偶然だ”と断じることは困難です。

 少なくとも、つい最近まで、お互いよく似た生活リズムで暮らしていたわけですから――
 そこに何の因果関係もなかったと主張するほうが不自然です。

     *

 このように、

 ――そこに何の因果関係もなかった。

 と結論づけることは、

 ――何らかの因果関係があった。

 と結論づけることよりも――
 少なからず大変なのです。