客の意外な動向の例として、よく言及されるのが、
――紙おむつと缶ビール
の組み合わせです。
小売店のレジの記録から、紙おむつを買う客は、同時にビールも買う傾向にあることがわかったために――
紙おむつと缶ビールとを並べて陳列したら、売り上げが伸びた――
というものです。
紙おむつと缶ビールとは、一見、何の関連もなさそうですから、
――意外な例
として、よく言及されるのですが――
よく考えてみると――
関連がないわけではなくて――
例えば――
紙おむつはかさばり、缶ビールは重い――よって、紙おむつを買う客はカートを利用しようとする――
カートを利用する客は、ついでに缶ビールを半ダース・セットで買おうとする――カートを利用しているときに、まとめ買いをしておこう、という心理が働くために――
といった関連が考えられます。
あるいは――
赤ん坊の世話にかかりきりの妻から紙おむつを買ってくるように頼まれた夫が、自分へのご褒美の意味で缶ビールも買っていく――
といった関連も考えられますよね。
ですから、「紙おむつと缶ビール」の組み合わせは、客の意外な動向の例として、よく言及されるわけです。
が――
本当に意外なのでしょうか。
たしかに、意外そうではあるのですが――
よく考えてみたら、そんなに意外ではないわけですよ――いろいろな関連性が指摘されているわけですから、むしろ、いかにも多くの人たちが思いつきそうなことといえなくもない――
こういう話は、ちょっと疑ってかかったほうがよいのですね。
事実――
「紙おむつと缶ビール」の話は、全部もしくは一部が何者かによる創作である――
と、主張している人たちがいます。
この話の出所を探っていったら、
――たしかに、ある小売店チェーンのレジの記録を調べたところ、紙おむつの売上と缶ビールの売上とに関連性を見出せることはわかったものの、その時は偶然の一致にすぎないとみなされて、とくに何か対応策が実行された事実はなく、紙おむつや缶ビールの売上が伸びた事実もない。
ということが判明したのだそうです。
しばしば、
――事実は小説よりも奇なり。
といわれますが――
実際には、
――小説は事実よりも奇ならざるなり。
なのですね。
さらに踏み込んでいうと――
現実は虚構よりも虚構らしく、虚構は現実よりも現実らしいのです。
なので――
いかにも現実にありそうな話ほど、注意しなければなりません。