マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

恋愛物質

 愛と恋との違いについて――
 今日、

 ――愛は心の作用であり、恋は脳の反応である。

 と考えられています。

 こうした考えを強力に支持する状況証拠がありまして――
 それが、

 ――恋愛物質

 の存在です。

 脳は無数の神経細胞が集まって形づくられています。

 それら神経細胞の働きが、何らかの原理のもとで互いに協調しあうことで、人の心は生み出されている、と――
 考えられています。

 恋愛物質は神経細胞神経細胞との繋ぎめの部位(シナプス)に出現するといわれています。

 そして――
 神経細胞同士の信号(活動電位の伝播)に直接的ないし間接的に関わっていると考えられています。

 恋愛物質が出現するのは――
 それを脳内の細胞が作り出しているらしいからです。

 神経細胞自身、もしくは脳内の神経細胞以外の細胞が、恋愛物質を作り出していると考えられています。

 この恋愛物質が神経細胞同士を行き交う信号に甚大な影響を与えているとき――
 人は恋をしている、と――
 考えられています。

 つまり、

  恋=恋愛物質の出現

 という図式が想定されているのです。

 ただし、ここで注意すべきは――
 仮に「恋=恋愛物質の出現」であっても――
 恋愛物質が神経細胞同士を行き交う信号に甚大な影響を与えることが、なぜ恋をすることに結びつくのか、という根本問題については――
 誰も答えを持ち合わせていないということです。

 その答えを描くには、なぜ神経細胞の集まりである脳に心が宿るのかを説明する必要があります。

 が、そのような説明に成功した科学者・哲学者は、2015年12月現在、一人もいません。

 また――
 恋愛物質の出現と恋との因果関係も不明確です。

 すなわち――
 恋愛物質が脳内に出現するから、人は恋をするのか――それとも、人が恋をすることで、恋愛物質が脳内に出現するのかは――
 今ひとつハッキリしていないのです。

 動物実験では、恋愛物質を脳に注入することで発情をもたらすことが確認されているらしいのですが――
 残念ながら、動物は“恋”の概念を言葉で明瞭には理解してくれません。

 ですから――
 その発情を“恋”とみなせるかどうかは、誰にもわかりません。

 かといって――
 人の脳に恋愛物質を注入するわけにもいきませんよね――
 あきらかに人の道に外れますので――

 なので――
 真実は、おそらく永遠にわからないのですが――

 それでも――
 恋をしている人の脳内に恋愛物質の出現のような現象が想定されうるという事実は――
 恋が脳の反応であることの強力な状況証拠に違いありません。

 恋を語るとき――
 この状況証拠を知っているかどうかで、語り口は全く変わってくるでしょう。