先年――
ある高名な学者さんが、座談の席で、ご自身の結婚に至った経緯を語られたときに、
「いや~、あの恋の衝動の生々しさというやつは、いかんともしがたいものですな~」
と、おっしゃっていたのを伺ったことがあります。
まったくその通りなのですね。
とにかく――
恋の衝動の“生々しさ”といったら、ない――
もし、この“生々しさ”を軽く考える人がいたとしたら――
その人は、おそらく恋の衝動で痛い目にあったことがないのでしょう。
恋の衝動の“生々しさ”は――
それを知っている人たちの多くが嘆息まじりに畏怖するところです。
――あれは怖ろしい。
と――
――もしかしたら素晴らしいものかもしれないけれども、決して、素晴らしいだけではない。
と――
この衝動に抗いきれずに――
つい人の道を踏み外してしまう――あるいは、踏み外しかけてしまう――事例の、なんと多いことか――
僕自身、けっこう身近なところで何度も見聞きしていますし――
そんなに身近ではないところでも――例えば、政界とか芸能界とかでも――しばしば見聞きしています。
では――
恋の衝動に、しっかりと抗いきるためには――
人は、何をしたらよいのでしょうか。
これは――
もう――
実際に恋の衝動の“生々しさ”を経験するしかありません。
実際に恋をし、恋の衝動を自覚し、その“生々しさ”に苛(さいな)まれてみて、つい人の道を踏み外す――あるいは、踏み外しかける――
そういう経験を実際にしてみるしかありません。
抽象的な予防策や観念的な警戒論は無力です。
頭の理解だけで恋の衝動に抗いきることは――
まず無理でしょう。
手痛い経験があることによって初めて――
人は、恋の衝動の“生々しさ”を重く考えるようになり――
その衝動に、重大な決意をもって、真剣に抗うようになります。
大切なのは――
そのような手痛い経験を1歳でも若く済ませておくことです。
10代や20代では笑い話になることが――
30代や40代では深刻な醜聞となり――
50代や60代では身の破滅となりえます。
たとえ10代、20代であっても――
社会的地位を高く築いてしまったあとでは――
醜聞や破滅から逃れることは難しいでしょう。