――創業は易く、守成は難し。
という故事成語があります。
中国・唐の時代――
皇帝・太宗が、近くに控えていた重臣らに、
「創業と守成と、どちらが難しいか」
と訊いたことに端を発するのだそうです。
ここでいう「創業」とは、国家を樹立することであり、「守成」とは、樹立した国家を維持することです。
唐という国家の樹立に功績のあった重臣は、「創業が難しい」と答え――
その国家の維持に成果をあげていた重臣は、「守成が難しい」と答えました。
太宗は、重臣らの顔を立て、
「創業も守成も、どちらも難しい」
と前置きをした上で、
「創業の困難は過去に去った。現在は守成の困難に立ち向かおう」
と号令を下します。
つまり、この故事から導かれうる直接の言葉は、
――創業は難く、守成も難けれど、今は守成の時なり。
です。
が――
今日に伝わるのは、「創業は易く、守成は難し」の言葉です。
おそらくは――
唐の世情が太宗の治世の終盤から徐々に乱れ始めていった史実を反映したものでしょう。
「創業も守成も難しい」とした太宗やその子孫らも――
結局は守成でつまずいたわけですから、その言葉には説得力があります。
ところで――
今日、「創業は易く、守成は難し」の言葉が、国家論の文脈で語られることは稀です。
むしろ、起業論・経営論の文脈で語られることのほうが普通でしょう。
この場合、「創業」とは、会社を起こすことであり、「守成」とは、起こした会社を維持して発展させていくことです。
唐の太宗は、「創業も守成も難しい」と答えました。
が、おそらく――
今日の優れた起業者・経営者は、「守成こそが難しい」と答えるでしょう。
なぜならば――
今日の意味での「守成」とは、起こした会社を守ることにあるのではないからです。
唐の太宗が守ろうとしたのは、国家でした。
今日の優れた起業者・経営者が守ろうとしているのは、
――創業の勢い
です。
会社を起こし――
当初は爆発的な勢いで成長を遂げ――
しだいに、その勢いを穏やかにしながらも、少しずつ確実に成長を続けていく――
それが、今日の意味での「守成」です。
創業の勢いを途絶えさせずに、いつまでも成長を続けていくことなど――
普通はありえません。
自然の摂理に反します。
にもかかわらず――
それを目指して邁進せざるを得ない――
なぜか――
成長を諦めた会社は、発展はおろか、維持さえも、おぼつかないからです。