相異なる2つ以上の言語が扱えると――
その分、より多くの人たちと交流ができ、より深い知性が培え、より豊かな感性を保てるに違いありません。
僕個人は――
大学院の頃に少しだけ科学研究に携わっていた経緯から――
日本語以外にも、多少は英語を扱うようになったのですが――
僕の英語は、本当に「多少は」のレベルでして――
強いていえば――
英語圏の幼稚園生レベルの英語に英語圏の中学生ないし高校生レベルの英語が混じってくるような――
そんな英語です。
ですから――
母語でない言語を、母語と同じくらい自在に扱える人たちが、うらやましく感じるのですが――
相異なる2つ以上の言語を自在に扱える状況というのも――
それなりにストレスがたまるのだそうでして――
以下は、人からきいた話です。
*
相異なる2つ以上の言語で、同じ人に同じ内容の質問をすると――
返答の内容が変わってくる――
ということがあるのだそうです。
例えば、
――今回が初めてですか。
と日本語で訊くのと、
――Is this your first time?
と英語で訊くのとでは――
返答の内容が変わってくる――
日本語で訊かれたときには、“初めて”を認めた上で、
――なので、ちょっと心配なんですが、よろしくお願いしますね。
と笑顔で応じるような人が――
英語で訊かれたときには、
――No...!
の一言で素っ気なく会話を終わらせてしまう――
ということが、大いにありうるのだそうです。
なぜ、そんなことになってしまうのか――
……
……
おそらく――
言語が異なれば、音も文字も異なるので、全く同じ内容を伝える文章を作成することは原理的に不可能であるから、ということが一つと――
仮に、全く同じ内容を伝える文章の作成が可能であっても――
その文章が用いられやすい文脈は、多少なりとも言語ごとに異なってくるから、ということが考えられます。
先ほどの例でいえば――
日本語の「今回が初めてですか」は、相手の緊張を解こうとする文脈で用いられることが多いのに対し――
英語の「Is this your first time?」は、相手の未熟を責めるような文脈で用いられることが多い――
というように――
……
……
相異なる2つ以上の言語を扱うときには――
十分な注意を払わないといけないのですね。