――堯(ぎょう)瞬(しゅん)の治
で知られる古代中国の伝説上の帝・堯には――
ある種の“鈍感さ”があることを――
きのうの『道草日記』で述べました。
きょうは――
その堯から帝位を受け継いだとされる舜について述べましょう。
……
……
舜は、堯から帝位を受け継ぎましたが――
堯の子ではありません。
市井の民の家に生まれたといいます。
幼くして母を亡くし――
父は後妻を迎えたため――
腹違いの弟がいました。
父は、その弟を可愛がり――
舜を疎みました。
父は、舜を迫害するのですが――
舜は意に介しません。
このことだけでも十分に舜の“鈍感さ”がおわかりかと思いますが――
実は、舜の“鈍感さ”は、もっと際立ったものです。
舜は、自分を迫害する父に対し――
なおも孝を尽くそうとするのですね。
父の悪意に気づかずに孝を尽くすのではなく――
気づいているにも関わらず、あえて孝を尽くそうとするのです。
もし――
舜が人並みに“敏感な人”であれば――
父に激しく抗うか――
あるいは――
抗わないまでも――
父から逃れようとするでしょう。
が――
逃れようとすら、しない――
何事もなかったかのように、父の傍にいて――
父に孝を尽くそうとする――
稀代の“鈍感さ”です。
……
……
そんな舜の評判を聞き――
帝・堯は――
舜を、自分の後継の候補者の一人に加えます。
そして――
自分の娘を二人も嫁がせ、舜の人柄を見極めたのです。
その結果――
堯は、
――舜に政治を任せてみよう。
と決断します。
摂政を命じられ――
舜は見事に役目を果たします。
いつしか――
臣や民の多くが、
――舜こそ次代の帝にふさわしい。
と考えるようになりました。
ところが――
このときも、舜は稀代の“鈍感さ”を発揮します。
誰もが「舜こそ次代の帝にふさわしい」と考えているのが明白なのに――
当の舜のみが、一人、
――ふさわしくない。
と主張するのです。
舜は、次代の帝に、堯の子を推します。
が――
その結果、政治が滞ったので――
舜は、仕方なく、自ら帝位に就くことを決断するのです。
……
……
“鈍感さ”も、ここまでくると――
かえって嫌味に感じられるくらいですが――
そこは、あくまで伝説ですので――
話半分に受けとるのがよいでしょう。
大切なことは――
少なくとも古代中国や、古代中国に端を発する漢字文化圏では――
そのような舜の振る舞いや態度ないし姿勢が――
堯と並んで、
――理想的である。
とみなされ続けてきたことです。
誤解を恐れずにいえば、
――東洋の政治哲学の根幹には“鈍感さ”があった。
ということです。