マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

堯舜の治にみる“鈍感さ”(2)

 ――堯(ぎょう)瞬(しゅん)の治

 で知られる古代中国の伝説上の帝・堯には――
 ある種の“鈍感さ”があることを――

 きのうの『道草日記』で述べました。

 きょうは――
 その堯から帝位を受け継いだとされる舜について述べましょう。

 ……

 ……

 舜は、堯から帝位を受け継ぎましたが――
 堯の子ではありません。

 市井の民の家に生まれたといいます。

 幼くして母を亡くし――
 父は後妻を迎えたため――
 腹違いの弟がいました。

 父は、その弟を可愛がり――
 舜を疎みました。

 父は、舜を迫害するのですが――
 舜は意に介しません。

 このことだけでも十分に舜の“鈍感さ”がおわかりかと思いますが――
 実は、舜の“鈍感さ”は、もっと際立ったものです。

 舜は、自分を迫害する父に対し――
 なおも孝を尽くそうとするのですね。

 父の悪意に気づかずに孝を尽くすのではなく――
 気づいているにも関わらず、あえて孝を尽くそうとするのです。

 もし――
 舜が人並みに“敏感な人”であれば――

 父に激しく抗うか――

 あるいは――
 抗わないまでも――
 父から逃れようとするでしょう。

 が――
 逃れようとすら、しない――

 何事もなかったかのように、父の傍にいて――
 父に孝を尽くそうとする――

 稀代の“鈍感さ”です。

 ……

 ……

 そんな舜の評判を聞き――

 帝・堯は――
 舜を、自分の後継の候補者の一人に加えます。

 そして――
 自分の娘を二人も嫁がせ、舜の人柄を見極めたのです。

 その結果――
 堯は、

 ――舜に政治を任せてみよう。

 と決断します。

 摂政を命じられ――
 舜は見事に役目を果たします。

 いつしか――
 臣や民の多くが、

 ――舜こそ次代の帝にふさわしい。

 と考えるようになりました。

 ところが――
 このときも、舜は稀代の“鈍感さ”を発揮します。

 誰もが「舜こそ次代の帝にふさわしい」と考えているのが明白なのに――
 当の舜のみが、一人、

 ――ふさわしくない。

 と主張するのです。

 舜は、次代の帝に、堯の子を推します。

 が――
 その結果、政治が滞ったので――
 舜は、仕方なく、自ら帝位に就くことを決断するのです。

 ……

 ……

 “鈍感さ”も、ここまでくると――
 かえって嫌味に感じられるくらいですが――

 そこは、あくまで伝説ですので――
 話半分に受けとるのがよいでしょう。

 大切なことは――

 少なくとも古代中国や、古代中国に端を発する漢字文化圏では――
 そのような舜の振る舞いや態度ないし姿勢が――
 堯と並んで、

 ――理想的である。

 とみなされ続けてきたことです。

 誤解を恐れずにいえば、

 ――東洋の政治哲学の根幹には“鈍感さ”があった。

 ということです。