――生命の誕生が1回だけにみえる不可解さを考えたら、パンスペルミア説も化学進化説も同じようなものである。
ということを――
きのうの『道草日記』で述べました。
……
……
ほんの50年くらい前は――
次のように考えられていたようです。
――生命の誕生は1回だけであった。それくらいに、生命の誕生は稀な現象なのである。つまり、30~100億年に1回くらいしか生命の誕生は起きないのだ。
地球の歴史が45億年ですから――
つじつまは合っているのですね。
ただし――
何か明確な根拠があったわけでは決してなく――
そんなふうに――
ただ何となく――
多くの科学者たちによって――
考えられていたにすぎませんでした。
が――
……
……
20世紀後半になって――
いわゆる深海・熱水噴出孔の周辺で活発な生命活動が検知されたことで――
様相は一変しました。
――こんな過酷な環境でも生命が存在しているのだから、生命の誕生は、さほど稀なことではないのでは?
との憶測が広まったのです。
熱水噴出孔というのは――
岩盤などの割れ目のことで――
300℃くらいの熱水が勢いよく噴き出ています。
深海の海底などにみられます。
熱水の熱源は地熱であろうと考えられています。
深海では水圧が高いために――
300℃くらいに熱せられても、水は沸騰をしないのですね。
300℃でも沸騰しない高圧の水の近く――
たしかに、過酷な環境です。
このような場所に生命を見出せたことは、
――生命の誕生は、30~100億年に1回ではなく、もっと高頻度に起こっていても不思議はない。
との考えに十分な説得力をもたらしました。
そして――
21世紀に入って――
さらに驚くべきことが判明しました。
いわゆる深海・熱水噴出孔の下の方で――つまり、海底の地下で――多量の微生物たちから成る広大な生命圏が広がっているらしい、ということが――
わかったのです。
生命は、ほんの50年前まで考えられていたような、柔(やわ)な存在ではありませんでした。
そうした生命観が学界の主流となったことで、
――生命の誕生は本当に1回だけか。
との懸念が――
にわかに本格化してきたといえます。