高校時代、昼食は学食でとっていた。
それを、母が嫌がった。
――なるべく弁当を持っていけ。
という。
弁当を拒んだのは、母のためでもあった。
通学には片道2時間を要した。朝は早くに家を出ねばならなかった。
弁当を拒むことで、母の負担は減った。
それは母も認めるところであった。
それでも――
母は、僕が学食に行くことに、いい顔をしなかった。
理由は、よくわからなかった。
――息子に自分の手料理を食べさせたい。
ということでは、なさそうだった。
その証拠に、
――学食で一緒に食べる友人がいるぶんにはいい。
という。
――1人で食べるなら、弁当を持っていけ。
といった。
(何いってんだか――)
と思った。
(弁当だって、1人で食べてりゃ一緒だろうが――)
と――
今日――
急ぎの夕食で、ファスト・フード店に入った。
そこで、
(なるほど――)
と思った。
高校生と思しき女の子が、1人で食事をとっていた。
その隣には、若いOLが、やはり1人で食事をとっていた。
受ける印象が違った。
OLよりも高校生のほうが、断然、わびしくみえた。
もし、高校生の前にあったものが弁当箱なら、そうでもなかったと思う。
薄っぺらいカレーライスの皿だったから、わびしくみえた。
1人で食べているのがOLなら、問題はない。
OLは大人だ。その食事を、自分で選んでいるに違いない。
が、高校生は、まだ大人ではない。
その食事を、自分で選んでいるようにはみえない。親の理不尽に耐えているようにみえてしまう。たとえ、実際は違っても――
そういう光景は――
周囲を暗くする。
母が気にしたのは、これだったかもしれない。
もし、僕が1人で学食にいたら、同じように周囲を暗くしただろう。
とくに学食の職員の人たちに、何となく嫌な思いをさせたかもしれない。
痛くもない腹を、さぐられていたかもしれない。