昨日はバレンタイン・デーだった。
今年は久々に誰からもチョコレートをもらわずに終わった。
複雑な気分である。
誤解のないようにいっておくと――
今年はスケジュールの関係で、単にチョコレートをもらい得る機会に遭遇しなかっただけである。
去年まで義理でもらっていた人々から一斉にソッポを向かれたというわけではない――
念のため――
複雑というのは――
バレンタイン・デーにチョコレートを贈るという商業的慣習に、今年は、全く振り回されずに済んだからであった。
毎年、降り回されている。
年によって事情は様々だが、毎年、ほぼ必ずといってよいくらいだ。
だから、今年は、だいぶ気分も楽なのだが――
まったく振り回されないと、やはり寂しいものである。
自分が、この商業的慣習を嫌っているのか、好いているのかが、ときどき、わからなくなる。
生まれて初めて、
――バレンタイン・デーに振り回された。
と感じたのは、大学生になって、学習塾で非常勤講師を始めたときだった。
2月14日といえば、大学受験期の真っ盛りである。
それなのに――
教え子の女子高生が手作りチョコレートの準備などを始めたものだから、面喰らった。
(頼むから勉強してくれ)
と呆れ返ったものである。
が――
その教え子は、そんなことを考えもなしに始めたのではなかった。
あとで、わかったことだが――
はじめから勉強の息抜きと割り切っていたのだという。
その証拠に、チョコレートは全て義理だといった。
たぶん、本当だ。恋愛熱にうなされてのことではなかった。
そして、何よりも――
ちゃんと、その年に第1志望の大学に合格している。
当時の僕が、
――振り回された。
と感じたのも、無理はなかった。