マル太の『道草日記』

ほぼ毎日更新――

虫好きの姫は実験や観察より論考や言説に関心をもっていた

 短編物語集『堤(つつみ)中納言物語』の一編、

 ――虫愛づる姫君

 の物語で――

 主人公・虫好きの姫が、

 ――本地たづねたること、心ばへをかしけれ。

 という台詞を口にしている――

 ということを、きのうの『道草日記』で述べました。

 

 ――物事の本来の素地を探ろうとすればするほどに、人の心は自然と浮き立つものである。

 くらいの意味です。

 

 これは、

 ――自然科学の観点

 に通じるものがある――

 ということも、きのうの『道草日記』で述べたのですが――

 

 ――自然科学

 というよりは、

 ――自然哲学

 のほうが近いかもしれません。

 

 ――自然科学

 では、実験や観察に重きが置かれます。

 

 ――自然哲学

 では、論考や言説に重きが置かれます。

 

 ――虫愛づる姫君

 で描かれている虫好きの姫は――

 虫の観察は行いますが――

 自ら野山に出向いて野生の虫を採ってくるところまではしません。

 

 虫好きの姫の性向が、実験や観察よりも、論考や言説に傾いていたことは明らかです。

 

 この性向は――

 虫好きの姫一人のものではなく――

 近代になって西欧で自然科学が学問領域として確立をされるまでは――

 実験や観察よりも論考や言説に関心が集まっていました。

 

 よって、

 ――近代自然学の確立をもって「自然科学」と呼び、それ以前を「自然哲学」と呼ぶ。

 という暗黙の了解さえあるのですね。

 

 要するに――

 虫好きの姫は、近代自然学が確立をされる前の世界を生きているのです。

 

 ここでいう、

 ――自然学

 とは、

 ――自然に関する学問

 くらいの意味です。

 

 このことは、

 ――虫愛づる姫君

 の物語が遅くとも江戸期までに紡がれていたとする見解に合致をします。

 

 日本で、

 ――近代以前

 といえば、

 ――江戸期まで

 です。